第86回道展 展評

    堅実な歩みが見える 


美術評論家  吉 田 豪 介

 

 いつものように道展の会場に入って「おやっ」と思った。正面の壁に100点以上もの小品が掛けられているのが眼に留まったからである。それは東日本大震災へ義捐金を贈るための展示即売会であった。結果は会員・会友の半分ほどが出品して完売し、義捐金は100万円を超えたらしい。心温まる活動といえよう。

 さて早速展覧会評に入ろう。入選者では、まず油彩と彫刻・工芸の受賞者クラスで粒が揃っていたが、中でも協会賞を射止めた菱野史彦「Cell」が図抜けて目立った。硬い鋼鉄線が複雑に交差するサイコロ状の透けた空間に、これも鉄線で繋ぎ合わせた球芯が浮かんでいる。綿密に計算された構造と特異な空間の表情に独創性が光っていた。

 次に佳作賞等を油彩部門から記述すれば、まず笹森衣里「愛に呼ばれて」と山田洋子「廃家に萌え」が好一対の佳作であった。笹森は徹底的に心理的な奥行きの抽象表現で、山田は様式的かつリアルな廃屋の写生だが、共に強い「拘り」が絵の存在感を支えていた。また梅原賢伸のリアリズムは疲労感を巧く捉えているし、小川豊「心のひだ」は生命の鼓動を、細貝信子「冬」は雪の季節の樹木の震えを、全く正反対の色とタッチで表現して興味深かった。新人賞の桂下いづみ河合春香は、ともに軽やかなピンクと蒼い影の抽象的な動態で不思議と似ていた。また注目の清武昌は新会友に推されたが、マチエールの透明性が進みミスティリアスな奥行きが広がっている。さらに絵本風な楽しさがユニークな島常雄、繊細な抽象様式の手塚昌広、堅実な写実の山元明らの新会友たちもいい感性を持っている。 

 次に水彩部門では、佳作賞の中泉勇「貝くんたち」が徹底的な細密描写で、宮西隆生がぼかし中心で、水彩絵具の2種の描写法に住み分けされて注目した。また新人賞の桂島和香子「HARMONY」は描写の丁寧さに共感する。なお日本画部門では今回佳作賞がなく新人賞が二人。柴田那奈「悠々」は白い象が愛らしく描かれ、工藤真由香は水中に巨大魚と自画像が共棲する。次に版画部門だが,佳作賞は対照的な2作家で、戸山麻子「銀の森」は連続する枝葉が快活な色調で目立ち、奥秋広美「棲ミカ」は逆に羽と葉の密集で、墨の味を利かせる。また新人賞の中村理紗はユニークな発想で明るく楽しい。

 彫刻では、佳作賞の板本伸雄も新人賞の橋知佳も誠実な仕事だが、もう一つ飛躍が欲しい。一方の 工芸では佳作賞で銅工芸の町嶋真寿が、陶芸で上田文子が豊かな量感を生成させて魅力がある。新会友吉成翔子は緻密な構造と遊びの奥行きが、新人賞の渡辺瑞生にはユーモアがある。

 さて会員、会友に移ると油彩では第2室で、沖縄の女と風景を幻想的にダブらせた山本勇一に始まり、豊田満、川畑盛邦、西田陽二、伊藤光悦らから真柄修一に至る壁面の競演に重い存在感がある。そんな中で塀の上で寝込む黒衣の女を、徹底的に描写した鉢呂彰敏作品に上品な繊細さがあり、成長が確認できる。

 その他では、外国旅行を追想する母娘の部屋を暖かく描いた木滑美惠、さらに岡部邦子、奧野侯子、澤田範明、武石英孝、宮川悦子、山川彩子、山内敦子と人物画の多彩さが目立った。風景画では対象を入念にあるいは幻想的に描いた奈良昌美、濱田五郎、廣岡紀子、福原幸喜、堀忠夫、本庄隆志らが印象に残った。一方の非具象では、ベテランの堀内掬夫、野崎嘉男、香西富士夫、高橋好子、三浦恭三らの次世代に位置する大谷美由起、大崎和男、千代明、中井泉、新出りえ子、向中野るみ子らが自由な発想で個性を磨き、今後が期待できそうだ。

 次に水彩画他では、青野昌勝、笹川誠吉、斎藤洋子、長谷川英二、三留市子、宮川美樹、安田祐三らの実力派のレベルが高いし、日本画でも川井担を筆頭に、朝地信介、北口さつき、千葉晃世、中野邦昭、羽生輝、平向功一らの先行組に比べて、次世代の層が薄いのが眼につく。その点、版画は中谷有逸、木村多伎子、金沢一彦らのベテランに続く石川亨信、小林大、早川尚、三島英嗣らの若手が揃い作風の幅が広がっているのがいい。

 彫刻、工芸では、まず小石巧作品の構造に惹かれた。フォルムでも材質でも強い拘りがあって新鮮だった。その他では柔らかい質感を見せる加藤宏子菅原尚俊武蔵未知に、工芸では小林繁美、田辺隆吉、戸坂恵美子、坂東豊光、それにテンペストの劇中歌を題材にした安田眞紀子のナイーブな感覚に注目した。

 会友では新会員となった上野幾子は堅実さで、大口優は洒落たリズム感で、古畑由理子本間輝子は色感の堅牢さで今後が期待できよう。そして会友賞は収穫が多かった。まず富原加奈子だが、早くから彼女のオリジナリティに注目していたので、ホッとしている。また斉藤順子には血の通った暖かさがあり、庄内康子には高い完成度が、中村泉には個性的な構成力がある。

 そして工芸でも竹田園子が、繊細で上品な色調の型染め着物で会友賞を受賞していた。